スッキリ【誰でもわかる】 大型商談を成約に導く「SPIN」営業術 ニール・ラッカム著 

 

今や、大型商談を扱う会社の必読本ともなっている著書。

ビジネスパーソンなら、間違いなく読んで損はない一冊です。

とてもわかりやすくスラスラと読めてしまう一冊ですが、より理解し実践に活かしていけるように要点をまとめてあります。

本を読む前の予習や、読んだ後の復習、また定期的に見直し実戦で活用していってください^^

 

大型商談を成約に導く「SPIN」営業術 ニール・ラッカム著

⑴始めに

大前提として、小型商談と大型商談は違います。

当たり前のように聞こえますが、このことを理解していないと腑に落ちないことも多く出てきます。

 

例えば、自分の家にセールスマンがやってきたとします。
 
その人が持ってきた商品が百円のボールペンだったとして、
ビシッとした紺色のスーツを着た爽やかイケメンのお兄さんが、「インクの持ちが今までの三倍になった最新のボールペンです。」と勧めてきたとしたら、ついつい買ってしまう可能性もあると思いませんか!?
私なら間違いなく、百円ならいっかとつい思ってしまいます。
 
また、派手なスーツに身を包んだいかにも胡散臭いセールスマンだったとしても、あまりにもしつこくごり押しされたら、面倒臭くなって購入をしてしまうかもしれません。
ましてやそれが好きなドラマを見ている時だったりすると、百円払うから早く帰って〜と叫びたくなりそうです。
 
つまり、状況はどうであれ、ものの5分で購入を決めると言う人も出てくると言うことです。
もしそのボールペンのインクが出てこなかったとしても、翌日にはまあいっかと思える人もいるでしょう。
 
では、それがマイホームを建てませんかというセールスマンだったらどうでしょうか。
 
その人が、どんなに自分の好みにどストライクだったとしても、はいわかりましたとはなりませんよね!?
また、どんなにゴリ押しをされても、そこまで言うんだったらわかりましたよ、とはならないはずです。
仮に、ちょうど検討していたんですと言う人だったとしても、一度家族に相談をしてみますと言うのが最大限の言葉でしょう。
 
このように、小型商談と大型商談では、根本的に異なります。
そして、本の題名でもある通り、今回は大型商談を成功させるための内容となります。
 
著書のまとめ
・小型商談と大型商談には、違いがある。(購入にかかる時間、購入をすることの責任感や重大さ、購入が失敗だった時のリスク等)
・小型商談の場合、見た目等の第一印象の影響があるが、大型商談ではさほど影響はない。
・小型商談の場合、反論されることは相手は興味を持っている証拠と捉えることもできるが、大型商談では反論はプラスには働かない。(反論を予防する話し方が大事)
・小型商談の場合、商品の特徴や利点を述べれば、それだけで成約に繋がることもあるが、大型商談ではそうはいかない。
・小型商談の場合、クロージングが有効であるが、大型商談ではさほど影響はない。
 
 

⑵商談の四段階

大型商談は、大きく四段階に分けることができます。(ほぼ全ての商談に当てはまる。)
①予備段階:商談の始めのウォーミングアップ
②調査段階:事実や情報、ニーズを見つけ出す
③解決能力を示す段階:あなたの商品の価値を示す
④約束を取り付ける段階:商談を先に進めるための同意を得る
 
 
 
①予備段階:商談の始めのウォーミングアップ
大型商談の場合、予備段階では毎回同じやり方が通用するわけではありません。
 
一般的に良いとされる、顧客の個人的な興味の話をすること(釣りや子どもの話等)も、人によっては好き嫌いがあるため、顧客によって使い分ける必要があります。
例えば、地方では人間関係が大きく影響するため、「お子さんはお元気ですか?」「○○町に新しくできたお蕎麦屋さん、とっても美味しかったですよ。」等のコミュニケーションも大事になります。
 
反対に、都会の会社役員などの多忙な人は、分刻みで予定が入っている人も多く雑談をしている暇がなかったり、多くのセールス対応に慣れている人は、そのような入りの会話に聞き飽きている人も少なくはありません。
 
また、営業トークの一つである最初に利点を述べる手法も、良し悪しがあります。
例えば、ある企業に新しい印刷機を売り込みきたセールスマンが、冒頭で「この印刷機を使用することにより、御社のインクの消費量を20%抑えれるため、コストを20%削減することが出来ますよ。」と力説しても、企業の問題はそんなに単純ではありません。それは、インク代だけがコストではないからです。また、そもそも企業がメインで頭を抱えていることは、別にある可能性もあります。
仮に、その企業が人件費の削減を主な課題としていた場合、いきなりインク代のコスト削減を推されても何にも響きません。実際には、新しい印刷機は印刷速度が1.5倍に改善しており、それにより業務処理速度が向上し社員の残業が減り、人件費の削減にも繋がるものだったとしても、そこまで話が進まない可能性も出てくるのです。
このように、相手のニーズを把握する前に自分の商品を勧めることにより、勝手に決めつけて話をしてしまう可能性があり、相手からの理解を得ることが難しくなります。
 
予備段階の目的は、次の段階(調査段階)へと移る同意を取り付けることです。そのため、
・あなたは何者か
・なぜ会いに来ているのか
・質問をしていいかどうか(相手が答える側という認識を持たせる)
上記3点を伝えることができれば、それで問題はありません。
 
例)
売り手:こんにちは、〇〇会社の△△です。当社のオフィス用品により、御社のコスト削減に貢献できることがないか、ご提案に参りました。
買い手:うちは人件費の方が問題だから、あまり意味がない気がするよ。
売り手:そうでしたか。確かに人件費に悩まれている企業はたくさんあります。しかし、当社のオフィス用品の導入により、人件費の削減に繋がったという事例もございます。そのような可能性がないか、確認をさせていただいてもよろしいでしょうか。
 
(商談は、相手の質問にこちらが答えるという立場になってしまうと、主導権を相手に取られうまくいきません。あくまでも、こちらが質問をすることで、相手に自分達の課題や商品が必要な理由を認識させて喋らせることが大事です。)
  
 
②調査段階:事実や情報、ニーズを見つけ出す
顧客のニーズを見つけ、それを発展させるためにSPINという質問を用います。
SPIN…状況(Situation)質問、問題(Problem)質問、
    示唆(Indication)質問、解決(Need-payoff)質問の略
※大型商談では、この調査段階が非常に大事になります。
 
大型商談における質問の目的は、潜在ニーズを見つけ出し、顕在ニーズに発展させることです。
潜在ニーズ:問題ではあるが、まだ認識されていない(重要視されていない)ニーズ
顕在ニーズ:改善をすべきだと認識されているニーズ
 

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図1

 

・状況質問
事実や背景、顧客の現在のプロジェクトなどを知るための質問
※質問をしすぎると、うんざりさせてしまう可能性があるため、腕利きの良いセールスパーソンはこの質問はあまり多用していません。
 
例)
「今どのような印刷機を使われていますか?」
印刷機は何台ありますか?」
「いつ頃から使われていますか?」
「毎月のインク代は幾らですか?」
 
・問題質問
顧客の抱える問題や支障、不満についての質問
※大型商談ではそれほど大きな効力はないため、商談ではあまりここに時間を使いすぎないようにすること。
 
例)
「今の印刷機は使いにくくないですか?」
「品質に満足していますか?」
「修理が必要な箇所はないですか?」
  →「さほど大した問題ではないけど、印刷速度が遅いことは少し気になるね。」
 
・示唆質問
顧客の抱える問題が引き起こす結果や影響について尋ねる質問
成功に終わる商談では、示唆質問の頻度がとても高いことが明らかになっています。
示唆質問をすることによって、その問題が重大な影響を与えるという認識を大きくし、それらを解決できる商品の価値を認め、求めるようになるためです。
※示唆問題の準備方法は後述
 
例)
「印刷速度が遅いことによって、どのような影響が出ていますか?」
  →「社員一人一人の業務処理がなかなか計画通りに終わらないこともあるんだ。」
「社内の業務速度が上がらないことによって、どのような問題が生じておりますか?」
  →「毎日残業をしている社員も多く、また、より多くの人材を雇わないといけないので、
    こちらとしては人件費が嵩んでしまうんだよ。」
「印刷速度が遅いことで、社員の業務効率を悪化させ、それが人件費が嵩む要因の一つだということでしょうか。」
  →「確かにそうかもしれない。そう考えると、印刷速度が遅いことは我が社にとって
    とても重要な問題だ。」
 
・解決質問
顧客に、商品に見出す価値や有効性、有益さを認めさせる質問
示唆質問と同様に、大型商談の成功に大きく影響します。
質問をして相手の口から語らせることにより、より大きな問題だということを認識させることができます。
 
例)
「印刷速度が上がることによって業務処理速度も上がり、結果的に社員の残業を減らし人件費を削減することに繋がるということでしょうか。」
  →「そうだね。印刷速度が上がって一人一人の業務速度が上がってくれれば、これ以上
    人を雇う必要も無くなるかもしれない。それに今いる社員も、残業が少なくなるこ
    とで仕事に対してのモチベーションも上がるかもしれないな。」
 
<まとめ>
状況質問で、顧客の背景を明らかにする
→問題質問で、顧客の問題点を発見する(潜在ニーズを引き出す)※ここで解決策を持ち出さない
→示唆質問で、その問題点の深刻さを際立たせる
→解決質問で、示す解決策で得られる利益を語らせる(顕在ニーズを顧客の口から語らせる)
 
上記の順番でなされることが多いのですが、絶対にこの順番でなければならないというわけではありません。(いきなり重要な問題の解決策から始まる場合もあります。)
柔軟に使ってこそ、最大の効果を発揮すると覚えておいてください。
 
 
③解決能力を示す段階:あなたの商品の価値を示す
著書では相手に伝える内容を「特徴」「利点」「利益」に分けており、大型商談では「特徴」や「利点」ではなく、「利益」を伝えることが大事だと述べられています。
(小型商談では、「特徴」「利点」をずらずらと並べるだけでも、成功に繋がることもあります。)
 
特徴とは:商品に関する事実
利点とは:商品の特徴がどう見込客の役に立つか
利益とは:見込客が口にした顕在ニーズに商品やサービスがどう応えることができるか
 
①の予備段階で前述をした、印刷機の例を用いるとします。
 
特徴:①インクを20%節約できる ②印刷速度がこれまでの1.5倍
利点:①インク代の削減 ②業務処理速度の改善
利益:印刷速度の向上により一人あたりの業務処理速度が改善され、全体の業務処理が上がることにより残業も減り、人件費を削減することができるようになる。
 
特徴をずらずらと述べると、価格の心配を生み出します。
この商品は○○です!さらに△△です!そして□□なんです!→いくらなんだろう?
 
また、利点をずらずらと述べると、反論を生み出します。
インク代の削減ができます!→そこを重要視しているわけではないんだよな…。
印刷速度がこれまでの1.5倍になります!→それは助かるけど、わざわざ印刷機を買い替えるまでの問題ではないかな。
 
利益を述べることによって、支持、賛成を生み出すことができるのです。
○○によって、人件費の削減に繋がります。→確かに。人件費の削減が課題の当社にとってそれは非常に助かるな。
 
つまり、利益を述べる(調査段階で見つけ出したニーズに対して、それをどのように改善できるのかを説明する)ことにより、相手からの反論を抑え、支持や賛成を得ることができるようになります。そしてそのためにも、②の調査段階で相手のニーズをしっかりと把握し、それをより大きなものに発展をさせるおく必要があるのです。
 
  
④約束を取り付ける段階:商談を先に進めるための同意を得る
小型商談で有効なクロージング・テクニックは、大型商談では役に立ちません。
(調査段階でニーズをより大きなものへと発展させ、解決能力を示す段階でそれを解決させる利益を示すことができればそれで十分。買いたがっている人にクロージングテクニックは必要ない。)
 
この段階では、以下三点を意識することが効果的です。
・主な懸念事項を取り上げたかどうか確かめる。
(=他に懸念点がないかどうか確認をする。)
・利益をまとめる。
(=大型商談は話が長時間に及ぶこともあるため、約束を取り付ける前に、キーポイントを要約して全体をまとめる。)
・見込客にとって無理のないレベルの約束を提案する。
(=次回は技術者の方とお話しできませんか等、セールスを次の段階に進めるもので、見込客にとって現実的なもの。)
 

⑶示唆問題の準備方法

示唆質問は他の質問よりも使いにくいと言われます。しかし、多くの人がこれを使いこなせないのは、事前に準備をしていないからと言えるでしょう。示唆質問を効果的に使えるようになるには、事前準備が必要なのです。

 

準備方法

 

①見込客が抱えていると思われる問題点を書き出す。(図2:今の機械は使いづらい)

②その問題に関連した他の問題(問題が引き起こす影響)がないか考える。(図2:四つの関連した問題点)

③書き出した関連した問題点について、どんな質問が可能か考える。(=示唆質問)

 

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図2

 

 

解決質問の準備方法

解決質問は、非常にシンプルかつ効果的な質問です。必ずと言っていいほど見込み客にポジティブな影響をもたらす質問は他にありません。しかしながら、解決質問を使うセールスパーソンは少なく、また、間違った場面で使っている人も少なくないようです。示唆質問と同様に、聞くことが難しいと思われているようです。
 
・商談の初期では使わないこと
商談が始まってすぐ「お客様、生産性を高める商品をお見せできたら、ご購入いただけますか?」と質問をしても、相手を身構えさせるだけで、逆効果になる可能性が高いです。
 
・答えがわからない時には避けること
買い手「両面コピーができる印刷機が必要ですね。」(顕在ニーズ)
売り手「(売り手の製品は両面コピーができない)どうして両面コピーができる印刷機が必要なのですか?」
買い手「紙のコストが減りますからね。郵送する時も書類枚数が減るため安くつきます。書類を保管するスペースを減らせるという点も良いですね。」
このように、解決できないにも関わらず解決質問をしてしまうのは、非常に危険です。(にも関わらず、このような質問をしたことがあると思い当たる方は、少なくないかと思います。)
解決質問をする最高のタイミングは、あなたが応えられるニーズが出てきた時です。
 
準備方法
習得が難しい示唆質問と違い、単純な練習でたちまちスキルが向上します。
①友人や同僚に、見込み客になってもらう。セールスの知識が全くない人でも構いません。
②相手のニーズを想定する。(例えば、新車や休暇、転職など)
③解決質問をして、相手にそのニーズを満たすことによる利点を語らせる。
例)
「どうして新車が欲しいの?」
「それがあれば、何ができるようになるの?」
「それを買ったら、家族の他の人も喜ぶ?」
「他の車と比べて、何が違うの?」
 
※実際の商談を同じように、あなたの見込み客がどんどん乗り気になるようにすること。
※特定の問題に関連する示唆質問と違い、解決質問は一般的なものが多いため、実際の商談でも使えるものが多い。
例)
「どうしてそれが重要なんですか?」
「それにどういうメリットがあるのでしょうか?」
「もし○○なら、あなたの役に立ちますか?」
「他にも、そのことによる利点はありますか?」
 
 

 ⑸スキルを習得するには

 
1. 練習は一度にひとつに
=一度にたくさんのことを習得することは不可能です。まず、学習する行動を一つだけ選び、それができるようになったら次の行動に移るように心がけてください。
 
2. 練習は安全な状況で
=人は新しいスキルを大事な場面で試したがる傾向にあります。しかし、大事な商談でいきなり新しいスキルを用いようとしても、うまくいくわけがありません。まずは、リスクの低い安全な状況を選んでから、新しい行動を訓練するようにしてください。
 
3. 質よりも量
=英語を習得しようと思うと、文法を一つ一つ学んで覚えていくより、とにかく実際に言葉を使って話す方が早く習得できます。同じように、うまくやろうと思うのではなく、たくさんやることに専念してください。そこから段々慣れてくると、自ずと質も向上してきます。
 
4. 少なくとも3回試してみるまでは、効果の是非を決めつけない
=これは何事にも言えることですが、初めからうまくいくわけがありません。1回やっただけで結果が出なかったと嘆き、諦めないようにしてください。
 
<戦略>
・調査段階に重点を置く
質問のスキルを磨きここで顧客のニーズを育てれば、あとはたいていうまくいきます。
(向こうに欲しいと思わせれれば、その後、利益を示すことも約束を取り付けることも容易)
 
・S→P→I→Nの順にひとつずつマスターする (質より量を意識すること)
1 とにかく質問をする
2 問題質問を使ってみる 質問内容は気にしなくて良い
3 問題点を発見できると感じるようになったら、示唆質問に移る 難しいので慎重に準備する
4 解決質問 こちらから利益を提供するのではなく、顧客があなたに利益を教えてくれるような質問に集中する
 
・問題をどう解決できるか、という視点から商品を分析する
商品の特徴や利点の観点ではなく、それがどのような問題を解決できるのかという、問題解決能力の観点から考えるように意識をしてください。
 
・計画、実行、そして見直し
計画をして実行をすることももちろんですが、商談の後に見直すことが何よりも大事です。
今回の商談の目標は達成できたか
またこの商談ができるとしたらどこを変えるか
この見込客との先々の商談に良い影響を与えるようなことを何か得たか
ほかの見込客との商談にも役に立つことが学べたか
これらの見直しを実践するかが、凡庸なセールスパーソンとの大きな違いになるということを、肝に命じておいてください。
 
 

⑹最後に

最後に、本のまとめで著者も言っていますが、営業には正解がなく、一つ一つの小さな行動が大事です。
文中の言葉を引用すると、「他者に善を施す者は、些細な行動でこれを施す。大きな善などというのは不埒な偽善者やおべっか使いのいいわけである。芸術も科学も細部にしか存在しえないのだから。」
楽して一度に大きな功績を挙げようとしてもうまくはいかないものです。自身の行動一つ一つをきちんと意識して、また行った行動に対してきちんと振り返り、人として成長をしていきたいものですね。